作詞の書き方は人それぞれであるだろうが、この数か月で私の見出すことのできた知見についていくらか列挙・説明しながら共有しようと思う。
①キーワードを作ること
キーワードを作ることはおそらく必須である。何の歌詞なのか。誰に向けた歌詞なのか……。といった具合に5W1Hを明確化する必要がある。しかし、これを守る必要があるかというとそういう訳ではなく、それをガイドラインとすることで歌詞を支離滅裂にさせない、守りの発想法である。
次に、キーワードを取り巻く語群を作る。キーワードを取り巻く語群を作製するためにはとにかく本を読もう。本を読まない怠け者は、残念ながら素敵な歌詞が作れない。本だけに頼ると時間がかかるのでほどほどにツールを使おう。例えば、広辞苑・歳時記といったものである。また、キーワードとは別にネタ帳(ミソ帳)などの別の思考皿を作るべきである。そこが幅になる。なぜかというと、キーワードからの連想はだれしもが辿り着きやすいからであり、ネタ帳のように思考皿が別レイヤーであると、他の人がそこに辿り着くのは容易ではないからだ(成果物が真似されたとしても、ノウハウがコピーされない)。
キーワードを作ることでターゲットが明らかになる。ターゲット層が決まると、口調を定めることができる。語りかけるのか、独白か、要求か、嘆きか、質問か、あるいは参加型の歌詞の場合もある。それらは曲ごとに統一すべきである。同様に時制も意識しよう。時制の場合は必ずしも同一である必要はないが、タイムリーㇷ゚のことを言うのでないならば、時系列の遡行は避けるべきである。
②より音楽的に
歌詞は一度作成してから変換する。私の場合は大抵そのように行っている。なぜなら、いきなり音楽的な歌詞から入ろうとすると途方もない作業に明け暮れることになるからである。もちろん、音楽的な歌詞から作成することもある。例えば、サビなどの見せ場は語感に遭ったメロディーと歌詞を同時に作ることが多い。
では、どのような方法があるのかを考えていこう。真っ先に思い当たるものといえば言うまでもなく、母音・子音である。これらの特性を理解することがまずなすべきことである。と言ってもそこまで難しいものでもない。母音に関して、ア・エ列は倍音成分が入っており高音に強い。口の動きを意識した歌詞を作るべきである。例えばア列とウ列を繰り返すようなパッセージは難しいし、また、同一の母音が繰り返すことは音楽的ではない(口が動くことで表情筋も動き、それが歌う楽しさに関係する)。しかし、頭韻や脚韻といった場合においてはアクセントとして繰り返すことが効果的である。アクセントは子音が大きく関係する。カ・タ行は特にパーカッションのように取り入れる場合がある。その他はあまり意識的に取り入れることはないが、バラードのようなゆったりとした息遣いの音楽ではサ・ハ行を意識的に頭尾に配置することがある。
語数の問題に悩まされることもあるだろう。そんな時は類語辞典を大いに活用すべきである。それでも解決しない場合は、とりあえず「あー」をはさんで文字数を消化したり、抽象的に言い換えたりすると解決する。
③より芸術的に(必要に応じて)
自分のなかのこだわりやどういう美意識を持つかは人それぞれであるが、私は歌詞に対して二つの軸を備えるようにしている。一つは深い共感。もう一つは幅広い共感。深い共感さえ得ることができればそれで充分だが、より幅広く共感を得ることができたらそれは幸せなことだと考えているからである。この二つを左右するのはそれぞれ絵的な表現と一般的な表現である。絵的な表現は追体験を目的としている。ただの言葉よりも深く入り込む。また、目に浮かぶ歌詞はそれだけで崇高なものである。しかし、これらは幅広い共感にはならない。レセプターがないと(同じような経験をしていないと)想起されないからである。一般的な表現は流行している曲の歌詞にはふんだんに盛り込まれている。たとえば恋だとか愛だとか、それそのものが曖昧かつよく聞く言葉たちのことである。これらは流行から取り入れるのも良いだろうが、歴史を勉強することを私は提案したい。そこに大きな確信があるわけではないが、私は美意識として、新鮮でど真ん中の言葉を使うべきだと考えているからだ。確かに、流行曲の歌詞はとても洗練されていて、つけ入る隙もない。それは裏返すと深みがないのである。
掛詞やリレーする歌詞もある。リフレイン効果を盛り込むことも多々ある。また、縦読みなど歌詞を起こさないとわからないもの、スクリームやシャウトの言葉でないものを用いても感情は伝わる。また、近年はバズるだとか、動画に映える曲だとかを多少は意識するべきなのかもしれない。レスポンスを要求する参加的要素や、コメントを催促するネタ的・複雑な要素・スラングなどを用いることで近代の曲として洗練されていくのかもしれない。
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