前回
私は、コンプはこんなもんで良いかくらいでいつも掛けてしまいます。しかし、それじゃいけないと思い始めてきたので、私と一緒にコンプを扱えるようになりましょう。今回もレシピにしようと思いましたが、ノブの説明を重点的にやりました。
まずコンプの挙動を大まかに3つのセクションに分けてみましょう。
A:アタック→パチっとした音。一番音が大きい
B:持続音→同じ音量が続く
C:余韻→持続音の音量が減衰していく
コンプは、AとBとCの音量を海苔波形に漸近させることができます(全体をBに近づけます)。コンプの細かいパラメータを弄るということは、どのように漸近させるかを指定するということです。アタックならば、粒感を強めたり、弱めたりできます。持続音に関しては、大きな変化はないですが、A→B、B→Cの遷移について着目する価値はあります。余韻に関してはより長くすることができます(個人的には、コンプの後にリバーブをかけた方が良いと思ってますし、コンプで余韻を伸ばすことに意味があるのかは分けて考えておくべきでしょう)。
次に、コンプのノブについてお勉強しましょう。
各種パラメータ

THRESHOLD
ここより音がでかいと海苔にします。
これをはじめに指定します。テストに出るので、属性ごとのスレッショルド値は暗記しておいてください(それを後で変更することに大きな問題はない)。暗記の出来ない方はスレッショルド値だけでもプリセットにしておくと良いと思います。あまりにも低い値にするとそれは実質ファズなので、余裕を持たせることが大事だと思います。コンプ感が足りないのであれば、後でキツくすればいいだけの話です。
GAIN
音をでかくします。
ダイナミクスを広げる、と解釈すると良いと思います。
音をでかくしてもスレッショルド値は同じなので、間接的に海苔にする領域を増やすことになります。どれくらいデカくするかはアナライザーを見ながら判断してください。
RATIO
私はこれくらい海苔にしたいですというのを決めます。
ゲインがダイナミクスを広げるのに対して、レティオはダイナミクスを狭める作用があります。密度やパワーを感じさせたい、音圧の高い音楽を作るならば、右にノブを回すと近づきます。
ATTACK
でかい音が来たときのレスポンス(全長)を決めます。
アタックが小さいほど、すぐに音量を小さくします。打楽器のように、アタックがなくなると人権を失う楽器はアタックは小さくしましょう。アタックが小さいとダイナミクスの勾配が大きくなるためです。ベース音や耳障りな音はできるだけアタックは大きくしましょう。低音・高音の勾配が大きいと、耳障りなサウンドになります。それでも耳障りになる場合は、ショートディレイを使ってください。
KNEE
スレッショルドで決めた境界線を曖昧にします(なめらかさを指定するイメージ)
竹なんとか島みたいな感じです(おっと)。ビットクラッシュみたいなサウンドメークをしたいのならば小さくても良いと思います。基本的に右側で良いと思いますが、あまりに回しすぎるとコンプ感が損なわれると思われます。
RELEASE
でかい音じゃなくなった時のレスポンス(全長)を決めます。
リリース値が大きいほど、アグレッシブに動きます。うなりを作りたいベースやドラムといった楽器は右にノブを回す と良いでしょう。速度の小さい音楽やブラスやストリングスは極端に右に回すと浮いてしまう可能性があります(ブラスはそれを意図的にするのはアリだと思う)。
これを使いこなすことがコンプの応用に要求されると考えています(後述)。
RELEASE CURVE
でかい音じゃなくなった時にどう戻るか(経路)を決めます
間接的にアタックの形を作ると考えていいでしょう。粒のようなアタック感はATTACKで指定できますが、A→BやB→Cのような遷移する箇所のディティールはこのノブで指定します。これはIQ3には必要ないです。
ここからは、マスタリング関係のノブ。IQ3は見なくていいです。
HIGH PASS
ステムごとコンプをかけるとき、低中域の音にひっぱられて高音がコンプにかかることを防ぐことができます。耳障りな高音はあらかじめ削っておきましょう。個人的には、低域、中域、高域で分けてステムを作ると良いと思います。
SIDE CHAIN
Unisum搭載。マスタリング行程において、ローファイ音源やハイファイ音源の場合、コンプがきれいにかからなくなるので、それを防ぎます。詳しくはググってくれ。もしくはコンプをキツくかけないなどで対策してくれ。
全てのパラメータにおいて、基本小さい値からスタートして右側にノブを回していくといいでしょう。その値をプリセット化してベンチマーク化して、次の作業の時短および高精度化をしましょう。
コンプを使う前にすること
ミキシング・マスタリングにおいてコンプを実際に使うにあたっての考えを提案します。
音を2つの視点で捉えます。一つは役柄、もう一つは属性です。
音源を構成する役柄を3つに分けて考えると、主役、脇役、舞台に分けることができると思います。それぞれ説明していきます。
主役は目立ってナンボなので、アタックは強くて良いですし、アグレッシブに動いて良いでしょう。アタックがなくても、アグレッシブでなくても、それはそれでありでしょう。要するに、一番自由度の高い役柄と言えるでしょう。
脇役は主役を引き立てるために存在しているので、目立ちすぎると主役がわかりにくくなります、脇役にも助演からモブまでいる訳でして、主役からの距離感で目立ち度合いを設定すると良いでしょう。
舞台は目立ってはいけませんが、主役を引き立てます。アタックは殺し、ダイナミクスは大きくするべきでしょう。しかし、アタックだけで存在するようなパートもあってよいでしょう。要するに、目立たないが、何等かの方法で存在は確認できるような役割と言えます。
このように考えると、その音をどうしたいのかを明らかにすることができます。
音に属性を付けるとオケのオリジナリティを制御できたり、聞きごたえを演出できます。
属性にはアタック、持続、余韻にうなりを加えたものに分けることができると思います。うなりとは、持続の中でも変化のあるものとします。実際はこのうなりの中でもさらに分類することは可能でしょうが、IQ3の僕にはわからないので、分けないことにします。
役柄とミスマッチな組み合わせはあるかもしれませんが、属性を与えることも、その音をどうしたいのかを明らかにすることに貢献します。また、基本的にコンプで与えることのできる属性は一つであるとします。したがって、今回は属性を取り扱い、聴き比べしていきたいと思います。
このように分けて考えることは、プリセットを作る上で重要なことなので、自分なりに音の目標を分類してください。
属性
先ほど述べた4つの属性のうち、アタック・うなりについて、コンプを使ったアプローチを比較しながら考えていきましょう。持続・余韻についてはコンプで比較する必要性は低いです。また、極端な比較を行います。
アタック
ドラムサウンドで、クリーン、デフォルト、アタックの強い場合、弱い場合を比較します。
クリーン
デフォルト

コンプの設定は以下の通りです。
THRESHOLD : 0dB/RATIO : 2:1/ATTACK : 25msec/RELEASE : 350msec/GAIN : 4dB/SC HP : 85Hz
アタック強め

コンプの設定は以下の通りです。
THRESHOLD : -20dB/RATIO : 6:1/ATTACK : 0.2msec/RELEASE : 5msec/GAIN : 4dB/SC HP : 300Hz
アタック弱め

コンプの設定は以下の通りです。
THRESHOLD : -20dB/RATIO : 6:1/ATTACK : 100msec/RELEASE : 1000msec/GAIN : 4dB/SC HP : 300Hz
これらを比較して意見を述べていきます。ATTACKを短くすると、やはり粒っぽくなりますが、0秒にするとリミッターのようなかかり方になるので注意です。リリースは自由度を感じますが、右側に回すほどゆったりとした印象に変わります。
うなり(応用)
うなりは人力、スライサー、オートメーションで作ることができますが、コンプを使って考えてみましょう。ディレイを組み合わせて使って作ります。
クリーン
コンプ後
コンプの設定は以下の通りです。
THRESHOLD : -24dB/RATIO : 6.5:1/ATTACK : 32.7msec/RELEASE : 600msec/GAIN : 0dB/ RELEASE CURVE : 100%
バスドラムには16分ディレイを付けてあります。バスドラムとスネアの音をトリガーに全体の音量が変化する感じです。シンバルは一定の音量で打ち込んでますが音量に揺らぎがあるのを感じていただけると思います。(両トラックともにシンバルにはフランジャーも加えてあります)
次回
「IQ3でもわかるミキシング【コンプレッサー・うなり】」に5件のコメントがあります